臨床研究を計画・サポートする際、「この研究は『特定臨床研究』に該当するのか?」という判断は非常に重要です。
もし特定臨床研究に該当した場合、「臨床研究法」に基づく厳格な対応(認定臨床研究審査委員会:CRBでの審査や厚生労働大臣への届出など)が必要になります。後から「実は特定臨床研究だった」と判明すると、重大な法令違反になりかねません。
本記事では、そもそも臨床研究法とは何か、特定臨床研究に該当するケースと対象外のケース、実施時の手続きなど、実務で迷いやすいポイントまで分かりやすく解説します。
記事の最後には**「タップで回答がわかる理解度チェック問題(臨床研究法の試験対策)」**も用意しているので、CRCや研究支援者の方はぜひ実務や知識の確認に活用してください!
「書類を見ながら『この研究は特定臨床研究に該当する?』と真剣に悩んでいる白衣を着た医師と、サポートするCRC(臨床研究コーディネーター)のイラスト。
【目次】
- そもそも「臨床研究法」とは?
- 「特定臨床研究」とは?(臨床研究法における定義と対象外)
- 特定臨床研究に該当する「2つのケース」
- 【要注意】現場で迷いやすい判断ミス・グレーゾーン
- 認定臨床研究審査委員会(CRB)の要件と実施手続き
- 【理解度チェック】臨床研究法に関する確認問題(タップで回答表示)
- まとめ
1. そもそも「臨床研究法」とは?
臨床研究法は、臨床研究の対象となる患者さんの保護と、研究に対する国民の信頼確保を目的に、2018年4月に施行された法律です。
過去に発生した臨床研究のデータ改ざん問題などを背景に、研究の「透明性」と「信頼性」を担保するため、利益相反(COI)の管理や、国の認定を受けた委員会での審査などが法的に義務付けられました。
臨床研究法では、規制の対象を**「特定臨床研究」と定め、それ以外の臨床研究(介入を伴うもの)については「努力義務」**として臨床研究法の基準を遵守することが求められています。
2. 「特定臨床研究」とは?(臨床研究法における定義と対象外)
臨床研究法では、人を対象として医薬品、医療機器または再生医療等製品の有効性や安全性を評価する臨床研究(介入を伴うもの)のうち、とくに厳格なルールの遵守が必要なものを「特定臨床研究」と定義しています。
臨床研究法の「対象外」となる主な研究
以下の研究は、臨床研究法(特定臨床研究)の対象外となります。
- 治験や製造販売後調査等(※薬機法による厳格な規制が別にあるため)
- 観察研究(※介入を伴わず、通常の診療データ等を用いる研究。「人を対象とする生命・医学系に関する倫理指針」の対象となります)
3. 特定臨床研究に該当する「2つのケース」
特定臨床研究に該当するのは、大きく分けて以下の2つのケースです。どちらか一方にでも当てはまれば特定臨床研究となります。
「左側に『製薬企業から資金や薬の提供を受ける図』、右側に『未承認の薬を使用する図』が描かれたインフォグラフィック風のイラスト。
ケース① 企業資金提供型研究
医薬品、医療機器または再生医療等製品の製造販売業者等から研究資金の提供を受けて実施する研究です。
研究結果に企業の利害関係が影響する可能性があるため、透明性確保のために法規制の対象となります。
- 【具体例】
- 製薬企業から研究費を受けて行う抗がん剤研究
- 医療機器メーカーの資金提供による性能評価研究
- ⚠️【要注意ポイント】
企業から直接資金提供を受けるケースだけでなく、財団、研究助成団体、寄附講座などを経由した資金提供であっても、実質的に企業資金と判断される場合は対象となります。
ケース② 未承認・適応外使用研究
未承認の医薬品・医療機器等を使用する研究、または承認済み製品を適応外で使用する研究です。
被験者へのリスクが通常診療より高くなる可能性があるため、厳格な管理対象とされています。
- 【具体例】
- 国内未承認の薬剤を用いる研究
- 承認薬を異なるがん種に投与する研究
- 承認用量を超えて使用する研究
- ⚠️【要注意ポイント】
「承認薬を使用するから対象外」と誤解されがちですが、承認薬でも**「適応外」「用法・用量外」「承認外の対象患者」**へ使用する場合は、特定臨床研究となります。
4. 【要注意】現場で迷いやすい判断ミス・グレーゾーン
次のような研究は現場で判断に迷うことが多いため、事前の確認・相談が非常に重要です。
- 企業資金を受けている「観察研究」
臨床研究法は「介入」を伴う研究が対象となるため、純粋な観察研究は対象外です。ただし「介入」に当たるかの判断は難しいため、専門部署への確認が必須です。 - 企業から「医薬品のみ」無償提供される
金銭の提供がなくても、医薬品等の無償提供を受けて有効性・安全性を評価する場合は、特定臨床研究(企業資金提供型)に該当します! - 多施設共同研究の一部施設のみが資金提供を受ける
代表施設や一部の共同研究機関が資金提供等を受けていれば、研究全体が特定臨床研究の対象となる可能性があります。
5. 認定臨床研究審査委員会(CRB)の要件と実施手続き
特定臨床研究を実施するには、厚生労働大臣の認定を受けた**「認定臨床研究審査委員会(CRB)」の審査を通過しなければなりません。また、法令で定められた「統一書式」**を用いて手続きを行う必要があります。
CRBの主な認定要件(厚生労働大臣による認定)
- 委員が5名以上であること
- 委員に男性・女性がそれぞれ1名以上含まれていること
- 医学・医療の専門家、法律の専門家、生命倫理の専門家、一般の立場の者が含まれていること
(※事務を行う者の厳密な人数規定ではなく、「十分な体制」を整備することが求められています)
実施までの主な手続き(6つのステップ)
「『COI確認』『CRB審査』『厚労省への届出(jRCT登録)』『モニタリング実施』という4つのステップを順番に進んでいく、すごろくや階段風の図解イラスト。
- 利益相反(COI)の確認:研究責任医師は利益相反管理基準および管理計画を作成し、CRBの意見を聴く。
- 実施計画の作成:法令で定められた要件を満たす実施計画(統一書式)を作成する。
- CRBの審査:倫理的・科学的妥当性について審査を受ける。
- 厚生労働大臣への届出(jRCT登録):jRCTで公開されて初めて研究が開始できる。
- 研究実施とモニタリング:手順書に従い継続的に監視する。
- 報告義務:重大な不適合(プロトコル逸脱等)が起きた場合は速やかに報告する。
6. 【理解度チェック】臨床研究法に関する確認問題
ここまでの内容を復習しましょう!知識の定着や試験対策にご活用ください。(タップすると正解と解説が開きます)
問1. 特定臨床研究に該当するもの
以下のうち、特定臨床研究に該当するものはどれ?(複数選択可)
① 未承認医薬品を用いて有効性・安全性を評価する研究
② 医療機器の性能評価を伴わない手術手技に関する研究
③ 通常診療の結果を解析する観察研究
④ 再審査・再評価のための製造販売後臨床試験
⑤ 製薬企業から資金提供を受けた財団経由で実施する臨床研究
👆 タップして回答と解説を表示
【正解】① と ⑤
【解説】
①は未承認医薬品を使用するため「未承認・適応外使用研究」。⑤は財団を介していても実質的に企業資金による研究であるため「企業資金提供型研究」に該当します。
(※②や③の観察研究、④の薬機法に基づく治験・製造販売後調査等は特定臨床研究の対象外です)
問2. 臨床研究法の規定に関する正誤
次の特定臨床研究のルールのうち、誤っているものはどれ?
① 利益相反管理計画を作成し、CRBへ提出する
② CRB審査後に、厚生労働大臣へ実施計画を提出する
③ モニタリング手順書を作成し、必要なモニタリングを実施する
④ 重大な不適合が判明した場合は速やかに対応・報告する
⑤ 研究終了後の記録保存期間は「3年間」である
👆 タップして回答と解説を表示
【正解】⑤ が誤り(正しくは原則5年間)
【解説】
特定臨床研究における記録の保存期間は、法令で「研究終了の届出日から5年間(または結果の最終公表日から3年間のいずれか遅い日)」と義務付けられています。3年間ではないため注意が必要です。
問3. 臨床研究法に関する総合問題
次のア~オの臨床研究法に関する記述について、正しいものの組合せをA~Eの中から1つ選んでください。
ア. 臨床研究法の対象は「特定臨床研究」のみであり、「治験」「観察研究」は対象とならない。
イ. 特定臨床研究とは、「未承認・適応外の医薬品等の臨床研究」「製薬企業等から資金提供を受けた医薬品等の臨床研究」を指す。
ウ. 研究責任医師は「利益相反管理基準」及び「利益相反管理計画」について、認定臨床研究審査委員会(CRB)の意見を聴かなければならない。
エ. 認定臨床研究審査委員会の要件には、「委員が5名以上であること」「男性及び女性がそれぞれ1名以上含まれること」「運営に関する事務を行う者が4名以上であること」が含まれる。
オ. 臨床研究法に基づく手続きには、法令で定められた「統一書式」がある。
【選択肢】
A. ( ア、イ、エ )
B. ( ア、ウ、エ )
C. ( ア、イ、オ )
D. ( イ、ウ、オ )
E. ( 全て正しい )
👆 タップして回答と解説を表示
【正解】D ( イ、ウ、オ )
【解説】
- ア:誤り。特定臨床研究以外の臨床研究(未承認薬等を使用せず、企業資金も入らない介入研究)も、臨床研究法において「努力義務」として基準遵守が求められており、一切対象にならないわけではありません(ただし治験や観察研究は対象外です)。
- イ:正しい。記事内で解説した2つのケースの通りです。
- ウ:正しい。透明性を保つため、厳格な利益相反(COI)の管理とCRBへの意見聴取が義務付けられています。
- エ:誤り。委員5名以上、男女各1名以上は正しいですが、「運営に関する事務を行う者が4名以上」という人数規定はありません(十分な体制を整備することと規定されています)。
- オ:正しい。厚労省により申請手続き等に用いる「統一書式」が定められています。
7. まとめ
特定臨床研究に該当するかどうかを判断する際は、まず次の2点を確認しましょう。
- 製薬企業や医療機器メーカー等から資金提供(実質的なものや物品提供を含む)を受けているか
- 未承認、または適応外(用法・用量外を含む)の医薬品・医療機器等を使用するか
このいずれかに該当し、有効性や安全性を評価する介入研究であれば、臨床研究法の対象となります。また、治験や観察研究とは適用されるルールが異なる点もしっかり押さえておきましょう。
研究開始後にトラブルになることを防ぐためにも、企画の初期段階で所属機関の研究支援部門やCRB事務局へ相談し、適切な手続きを進めることが成功の第一歩です!




