薬物動態・薬力学は、薬の「効き方」と「体内での動き方」を理解するための基本です。ここでは、初学者にもわかりやすいように、試験対策にも役立つ形で記事と問題を作成しました。
目次
- 薬物動態・薬力学とは?
- 薬物動態学(PK):薬は体内でどう動くのか
- 吸収:薬が体内に取り込まれる過程
- 分布:薬が全身に広がる過程
- 代謝:薬が体内で変化する過程
- 排泄:薬が体外に出る過程
- 薬力学(PD):薬は体にどう作用するのか
- 定常状態とは
- 腸肝循環とは
- 試験で押さえるポイント
- 練習問題と解説
- まとめ
薬物動態・薬力学とは?
薬が「体の中でどう動き、どう効くか」を理解する
薬を飲んだり注射したりすると、薬は体内に入り、血液に乗って運ばれ、目的の部位で作用します。しかし、薬は投与した瞬間にずっと同じ濃度で体内に存在するわけではありません。時間とともに吸収され、分布し、代謝され、排泄されていきます。
この「薬が体内でどう動くか」を考える学問が**薬物動態学(Pharmacokinetics:PK)です。
一方、「薬が体にどのような作用を及ぼすか」を考える学問が薬力学(Pharmacodynamics:PD)**です。
簡単にいうと、次のように整理できます。
| 分野 | 見ている内容 | ひとことでいうと |
| 薬物動態学(PK) | 薬の血中濃度や体内での動き | 体が薬に何をするか |
| 薬力学(PD) | 薬の効果や副作用 | 薬が体に何をするか |
1. 薬物動態学(PK):薬は体内でどう動くのか
薬物動態学では、薬が体内に入ってから体外へ出るまでの流れを考えます。代表的な考え方が「ADME(アドメ)」です。
ADMEとは
ADMEとは、次の4つの過程の頭文字をとったものです。
- A:Absorption(吸収)
- D:Distribution(分布)
- M:Metabolism(代謝)
- E:Excretion(排泄)
イメージとしては、次のような流れになります。
- 投与:薬を飲む・注射する
- 吸収:血液中に入る
- 分布:全身の組織や臓器へ運ばれる
- 代謝:主に肝臓で別の形に変化する
- 排泄:主に尿や胆汁として体外へ出る
2. 吸収:薬が体内に取り込まれる過程
経口薬の場合、薬は口から入り、胃や小腸を通って吸収されます。多くの薬は小腸から吸収され、血液中に入ります。ただし、飲んだ薬がすべて全身の血液中に届くわけではありません。消化管で分解されたり、肝臓を通過する際に代謝(肝初回通過効果)されたりするためです。
生物学的利用率(バイオアベイラビリティ)とは
投与された薬のうち、どれだけが全身循環血中に到達したかを示す割合です。
- 計算式:生物学的利用率 = 循環血中に到達した薬物量 ÷ 投与量
たとえば、100 mgの薬を飲んで、そのうち50 mg相当が全身循環に到達した場合、生物学的利用率は50%です。経口薬では、消化管吸収や肝初回通過効果の影響を受けるため、生物学的利用率は薬によって大きく異なります。
3. 分布:薬が全身に広がる過程
血液中に入った薬は、血流に乗って全身へ運ばれます。薬は血液中だけに存在するのではなく、目的の臓器や組織にも移行します。
分布に影響する主な要因には、次のようなものがあります。
- 血流量:血流が多い臓器ほど薬が届きやすい
- 薬の脂溶性:脂溶性の高い薬は脂肪組織や中枢神経系に移行しやすい
- 血漿タンパク結合率:血液中のタンパク質と結合している薬は組織へ移行しにくい
- バリア機能:血液脳関門など、特定の物質の侵入を防ぐ仕組み
4. 代謝:薬が体内で変化する過程
薬の多くは、肝臓で代謝されます。代謝によって、薬は水に溶けやすい形になり、尿や胆汁中に排泄されやすくなります。
代表的な代謝酵素として、**CYP(シトクロムP450)**があります。CYPは「薬物相互作用」にも関係する重要な酵素です。たとえば、ある薬がCYPの働きを邪魔(阻害)すると、一緒に飲んだ別の薬の代謝が遅くなり、血中濃度が上がりすぎて副作用が出やすくなることがあります。
5. 排泄:薬が体外に出る過程
薬やその代謝物は、主に腎臓から尿中に排泄されます。また、胆汁中に排泄されて便中へ出る薬もあります。
排泄に関係する主な経路は以下の通りです。
- 腎排泄:尿として排泄(最も代表的)
- 胆汁排泄:胆汁を介して便中へ排泄
- 呼気中排泄:揮発性物質など
- その他:汗、唾液、乳汁中への排泄
※腎機能が低下している患者では、腎排泄型の薬が体内に蓄積しやすくなるため、投与量を減らすなどの調節が必要になる場合があります。
薬力学(PD):薬は体にどう作用するのか
薬力学は、薬物濃度と薬効(効果や副作用)の関係を考える分野です。
薬物動態学(PK)が「血中濃度がどのように変化するか」を見るのに対して、薬力学(PD)は**「その濃度でどれくらい効果が出るか」**を見ます。
同じ血中濃度であっても、受容体の感受性、年齢、病態、遺伝的要因などによって、患者ごとに効果や副作用の出方が異なることがあります。
PKとPDの違いのまとめ
- PK(薬物動態学) = 薬の量の変化を見る(例:血中薬物濃度、半減期、クリアランス)
- PD(薬力学) = 薬の効き方・強さを見る(例:鎮痛効果、血圧低下作用、副作用)

薬力学(PD):薬は体にどう作用するのか
薬力学は、薬物濃度と薬効(効果や副作用)の関係を考える分野です。
薬物動態学(PK)が「血中濃度がどのように変化するか」を見るのに対して、薬力学(PD)は**「その濃度でどれくらい効果が出るか」**を見ます。
同じ血中濃度であっても、受容体の感受性、年齢、病態、遺伝的要因などによって、患者ごとに効果や副作用の出方が異なることがあります。
PKとPDの違いのまとめ
- PK(薬物動態学) = 薬の量の変化を見る(例:血中薬物濃度、半減期、クリアランス)
- PD(薬力学) = 薬の効き方・強さを見る(例:鎮痛効果、血圧低下作用、副作用)
定常状態とは
薬を一定間隔で繰り返し投与(反復投与)すると、血中薬物濃度は徐々に上昇します。しかし、ずっと上がり続けるわけではありません。
「投与によって体内に入る薬の量」と、「代謝・排泄によって体外へ出ていく薬の量」がつり合うと、血中濃度は一定の範囲内で推移するようになります。これを**定常状態(steady state)**といいます。
【血中濃度の推移イメージ】
- 反復投与開始
- 血中濃度が徐々に上昇
- 投与量と消失量がほぼ均衡
- 一定の濃度幅に収束 = 定常状態
定常状態に達するまでの時間は、薬の「半減期」に大きく影響されます。一般に、半減期の数倍(約4〜5倍)の時間が経過すると定常状態に達すると考えられています。
腸肝循環とは
腸肝循環とは、肝臓から胆汁中に排泄された薬物や代謝物が腸管に移行し、そこで再び吸収されて肝臓に戻る現象です。
重要なのは、胆汁中に排泄されるという点です(膵液中などではありません)。
【腸肝循環の流れ】
肝臓 →(胆汁中へ排泄)→ 腸管 →(再吸収されて門脈へ)→ 肝臓へ戻る
腸肝循環を起こす薬は、体内をぐるぐると回るため、体内滞留時間が長くなり、効果が長引く特徴があります。

試験で押さえるポイント
薬物動態・薬力学の試験では、次の点がよく問われます。
- PKとPDの違い
- PK:血中濃度の時間的推移(体内での動き)
- PD:薬効や作用の強さ(体への影響)
- ADMEの意味
- Absorption(吸収)、Distribution(分布)、Metabolism(代謝)、Excretion(排泄)
- 生物学的利用率
- 投与量に対して、循環血中に到達した薬物量の割合
- 腸肝循環
- 胆汁中に排泄された薬物が腸管で再吸収され、肝臓へ戻る現象
- 定常状態
- 反復投与により、体内に入る量と出る量がつり合い、血中濃度が一定範囲に収束する状態
練習問題と解説
【問題】
次の①~⑤の薬物動態・薬力学に関する記述について、正しいものの組合せをa~eの中から1つ選びなさい。
① 薬力学(PD)とは、製剤を患者に投与した後に得られる血中薬物濃度の時間的推移を検討することである。
② 薬物動態学でいうADMEとは、吸収、分布、代謝、排泄のことである。
③ 生物学的利用率とは、循環血中に移行した薬物量の投与量に対する比率のことをいう。
④ 膵液中に排泄された薬物が腸管に至り、再吸収され肝臓に戻ることを腸肝循環という。
⑤ 経口剤を決められた用法用量に従って繰返し反復投与を行うと、血中薬物濃度は上昇していくが、やがては一定の濃度幅に収束し、定常状態となる。
【選択肢】
a. ①、②、③
b. ①、③、④
c. ②、③、⑤
d. ②、④、⑤
e. ③、④、⑤
【解答と解説】
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正解: c (②、③、⑤)
-
① 誤り
薬力学(PD)は、薬物濃度と薬効・副作用との関係を検討する分野です。「血中薬物濃度の時間的推移」を検討するのは、薬物動態学(PK)です。
-
② 正しい
ADMEとは、Absorption(吸収)、Distribution(分布)、Metabolism(代謝)、Excretion(排泄)を指します。
-
③ 正しい
生物学的利用率は、投与された薬物量のうち、全身の循環血中に到達した薬物量の割合です。
-
④ 誤り
腸肝循環とは、通常、肝臓から「胆汁中」に排泄された薬物や代謝物が腸管に入り、再吸収されて再び肝臓に戻る現象です。設問の「膵液中」は誤りです。
-
⑤ 正しい
同じ用法用量で反復投与を行うと、血中薬物濃度は徐々に上昇し、その後、投与による増加量と代謝・排泄による減少量がつり合い、一定の濃度幅に収束します。これを定常状態といいます。
まとめ
- **薬物動態学(PK)**は、薬が体内でどう動くか(吸収・分布・代謝・排泄:ADME)を追う学問であり、血中濃度の変化を評価します。
- **薬力学(PD)**は、薬が体にどう効くか(効果や副作用)を評価する学問です。
- 薬は口から入ったあと、そのまま全てが血中に届くわけではなく、その到達割合を生物学的利用率と呼びます。
- 薬は主に肝臓で代謝され、腎臓(尿)や胆汁から排泄されます。胆汁から腸に排出された薬が再度吸収されることを腸肝循環と呼びます。
- 薬を継続して飲む(反復投与)と、入る量と出る量が釣り合う定常状態に達し、安定した効果が得られるようになります。
これら「PK・PD」「ADME」「生物学的利用率」「定常状態」「腸肝循環」というキーワードは、試験でも頻出であり、医療現場で薬を扱う上でも極めて重要な基礎知識です。それぞれが「薬のどの過程・状態を示している言葉なのか」を紐付けて理解しておきましょう。

